アメンボの倉庫

!ご注意!オリ主の登場する二次創作の小説等を置いています。

春告の求道者_ver.女性主人公

第1章⑮_ver.女性主人公

第13節 「先程は大変失礼致しました。私はシャルロッテ。カンドも多少は使えますが、専門はチャッペルの魔法使いです。ラップ先生には10代の頃より大変お世話になっておりまして…。」 落ち着きを取り戻した女はログにそう名乗った。 「村の名前の書かれてる…

第1章⑭_ver.女性主人公

第12節 死は平等だ。そして人間は、死んでから漸く平等になれる。賢も愚も、美も醜も、善も悪も、人気者も除け者も――。今は等しく土の中に埋まっている。きっと魂も皆同じ場所に還るのだろう。 墓地の長椅子に座るシャルロッテは、弟が苦心して作ったサンド…

第1章⑬_ver.女性主人公

第11節 「…2人とも大きくなりました。」時が経つのは早い、そうしみじみと語るミッシェルは、父や叔父より祖父の趣きがあった。 「泥棒になってたけどね…。」 「残念ですが、仕方のない事でもあるのです。今のティラスイールで魔術士になるには…。」 魔術を…

第1章⑫_ver.女性主人公

彼が持って来た物、それは彼等の父クラウスが作った水魔法を封じたガラス玉の入った木箱だった。ガラス玉は卵大程の大きさで、箱の中に6個入っていた。 当時、魔法文化が遅れていたティラスイールでは、大魔導師や宮廷魔導士と称される並外れた才能を持つ者…

第1章⑪_ver.女性主人公

ノアベルトは問いただすように旅人に言った。世界はボルトだけではなかった。その事実はノアベルトに希望と絶望を与えた。 海を背にして立つ白亜の宮殿、砂漠に眠る地下迷宮、空が零れ落ちたのかと見紛う程澄んだ湖、その近くに住む純朴で優しい村の人々――世…

第1章⑩_ver.女性主人公

第10節 「お魚を分けて下さい。」 シャルロッテが言うと、漁港に停まった船の上で網の手入れをしていた漁師は、姉弟には目もくれず黙って船上の一角を指差した。そこには市場で売れない未利用魚が入ったバケツがあった。 「…全部持ってて良いですか?」 シャ…

第1章⑨_ver.女性主人公

第9節 早朝、目を覚ましたシャルロッテはすぐに裏の井戸に水を汲みに行った。弟と旅人はまだそれぞれの寝床で寝息を立てている。見上げた薄紅色の空には、月が残っていた。 彼女は井戸の縁 (へり) に腰をかけ、前掛けのポケットから本を取り出した。――『砂…

第1章⑧_ver.女性主人公

第8節 喉が渇いた。 部屋は薄暗い。既に日が沈んでいるのだろう。 ミッシェルは枕元に置かれた呼び鈴に手を伸ばしかけたが、止めた。 この家に来て3日――大分身体の痛みも和らいで来て、寝ている分には殆ど何も感じない。 子供達は、ミッシェルが大怪我を負…

第1章⑦_ver.女性主人公

第7節 最後にもう1度、ノアベルトは店の出口で振り返り、申し訳なさそうにお辞儀をした。 「…お前を匿った姉弟って、もしかして…。」 少年に向かって、笑顔で手を振るミッシェルに、フロード――トーマスは尋ねた。 938年、ボルト――。 嵐の過ぎ去った早朝の…

第1章⑥_ver.女性主人公

「姉さん?」 宿酒場の手洗いに向かったノアベルトは、店の裏に面した小窓を開け、姉が居るか小声で確認した。 「ノア!」 近くで待機していたシャルロッテは弟の顔を見てホッとした様子で小窓に駆け寄って来た。が、すぐに鞄から先程ミッシェルから盗んだ本…

第1章⑤_ver.女性主人公

「僕たちが聞いた話だと魔導士としての力は勿論、政治家としても素晴らしい人だって…。アンビッシュの人から見た彼はどんな人?」 アンビッシュ戦後復興の尽力者の1人として、彼の名を挙げる者は国内外でも多い。 「…は、はい…。モリスン様は――。(モリスン…

第1章④_ver.女性主人公

第6節 「宿酒場 (ここ) の料理は何でも美味しいけど、おすすめは、この、山鳩のパイシチューですね!」 「鳩…。」 ノアベルトの言葉に3人は顔を引きつらせた。 「え、えーと、アンビッシュは漁業が盛んって聞いたんだけど?」マイルが少年に尋ねた。 「魚…

第1章③_ver.女性主人公

第5節 謁見の予約を終えたミッシェルは、街の掲示板の前にいた。正式な謁見の日時は今日の夕方には決まるだろう。それまでは街の情報収集に時間を費やそう。昼食もまだだ。 掲示板には、魔獣討伐の依頼書から仕立て屋の求人、栄養ドリンクの宣伝まで節操な…

第1章②_ver.女性主人公

第2節 944年春の終わり――。 その日の朝も彼はテラス席で新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。テーブルにはヴェルトルーナで親しまれている大衆小説――詐欺師フロードの華麗なる冒険・第3巻。彼の上司から“何で鳩が出て来るんだ!?薔薇だけで良いじゃねー…

第1章①_ver.女性主人公

第1章『再会』 第1節 開花したばかりの林檎の花は真っ白ではない。花を裏返すと桃色の斑模様がある。この色が付いてる部分は蕾の時に外気に触れている箇所だ。それが徐々に退色し、白くなるのだ。それは、承認欲求と劣等感の塊のような問題児や腕白小僧が…

序章⑫_ver.女性主人公

第8節 ルカが甲板に出ると、懐かしい曲が耳に入って来た。 穏やかな曲だが、何処か郷愁を感じさせる。 「(違う世界の曲なのに心に響く感覚は変わらないんだな――。)」 音楽が聴こえて来る方へ進むと、奏者は船尾に繋がる階段に腰を下ろしていた。肩には鳩を…

序章⑪_ver.女性主人公

第6節 「シャルロッテ・ゲッペウスは陛下に何と言ったのだろう?」 ブリットの話を聞き、デュルゼルは呟いた。 「すみません…。口元を手で隠され、読唇も出来ませんでした。」 申し訳なさそうに言うブリットに、デュルゼルは慌てて自分の意図を弁明する。 …

序章⑩_ver.女性主人公

やがて―― 「相分かった。シャルロッテ・ゲッペウス、楽にせよ。」 フォルティア国王ルドルフの声が厳かに響き渡った。 その言葉にブリットは剣を収め、息を整える。女は立ち上がり、先程自分が杖を置いた場所に戻った。 「…他に何かあるか?」 女が杖を拾い…

序章⑨_ver.女性主人公

第5節 「近くに落ちましたね。」 静寂は女の声で破られた。同時にブリットは我に返る。「びっくりしましたね」女は彼に同意を求めるように笑い掛けると、またルドルフ王に視線を戻した。 「私は、シャルロッテ・ゲッペウスと申します。旅の魔術士でございま…

序章⑧_ver.女性主人公

第4節 「――そうか。そのような事が…。」 場面はルード城の謁見室に戻る。 「大義であった。」 王の言葉にデュルゼルは頭を下げた。 「今一度、オルドス側に確認を取るしかないか…。」 ドルフェス港の大型船の件も含め、オルドスに確認中ではあるが、問い合…

序章⑦_ver.女性主人公

「せっかくの鍛錬中にお邪魔してしまい、申し訳ございませんでした。お時間を頂けた事に感謝致します。」 ウーナは2人に丁寧に礼を述べた。 「もう良いのかい?積もる話しもあるだろうから、茶でも飲んでゆっくりしてけよ。俺もゲルドさんの話しもっと聞き…

序章⑥_ver.女性主人公

「貴女に、伺いたい事がある。」 祈りを終えたウーナにデュルゼルは声を掛けた。 「ラウアールの波の消滅方法――オルドスは、どこまで把握していたのだ?」 「…。」 ウーナ一行が異界へと派遣された961年、その時点でオルドスはほぼ全てを把握していた。 ラウ…

序章⑤_ver.女性主人公

3人が声の方を振り返ると、いつの間にか春の花々を持った神官親子が樹々の合間に立ち、こちらを見ていた。シャルロッテはばつが悪そうに、お辞儀をすると、ゲルドの墓の前から忽然と姿を消した。――が、次の瞬間には少し離れた木の下にその姿を表した。 それ…

序章④_ver.女性主人公

デュルゼルとローディは3人をゲルドの墓に案内し、あの時あの2人に聞かせた白き魔女の物語を事件の真相や顛末等必要な補足を付け加え語った。3人は黙って聞いており、ローディもその傍らで腕を組み、耳を傾けていた。デュルゼルと白き魔女の関係はある程…

序章③_ver.女性主人公

第3節 「宮廷剣士デュルゼル様ですね?」 振り返ると紺色のローブを身に纏った女が立っていた。格好からして魔法の使い手だろう。ダークブラウンの髪を後ろでまとめ、琥珀色の目をした美しい女だった。 「こちらにおられると、国王陛下より伺いましてね。……

序章②_ver.女性主人公

第2節 春の嵐は赤子の産声だ。前世でもう生まれまいと、あれ程誓ったにもかかわらず、また人の子として生まれてしまった事を後悔し、新たな贖罪を背負ってしまう事を嘆く、人間の産声だ。 ラウアールの波から3カ月、世界は何事もなかったかのように動いて…

序章①_ver.女性主人公

ガガーブ暦993年春、ある時化の日ーー。ドルフェスの港に一隻の大型船が停泊した。 その船の停泊期間と重なるように、奇妙な女が英雄デュルゼルの元を訪れる。 女は、シャルロッテ・"ゲッペウス"と名乗った。