アメンボの倉庫

!ご注意!オリ主の登場する二次創作の小説等を置いています。

序章⑤_ver.女性主人公

 3人が声の方を振り返ると、いつの間にか春の花々を持った神官親子が樹々の合間に立ち、こちらを見ていた。シャルロッテはばつが悪そうに、お辞儀をすると、ゲルドの墓の前から忽然と姿を消した。――が、次の瞬間には少し離れた木の下にその姿を表した。
 それと交代するようにウーナが墓の前に歩み出て、
「ゲッペウスが大変失礼を致しました。誠に申し訳ございません。彼女には後程厳しく言い聞かせますので、デュルゼル様、ローディ様、どうかお許しを。」
と、2人に詫び、深々と頭を下げた。
「…いや、気になさるな。」
デュルゼルはウーナから目を逸らしながら言った。
 母親の横をすり抜け、レオンティーナがデュルゼルの前に出た。手には花を持ったまま、薄水色の瞳を真っ直ぐデュルゼルに向けて言った。
「――あなたが未だ捨てられずにいるその罪の意識は、本来あなたが持つべき物ではなかったのだから、もう手放して良いんだよ…シャルロッテはそんな事を言いたかったんだと思う。」
少女の大人びた口調とやや上からの物言いにデュルゼルのみならずローディまでも戸惑い、2人は目を見交わした。間を置かず母親の叱責が飛ぶ。
「こら、レオナ!ちゃんと年上の人には敬語を使いなさいと言っているでしょう?オルドスの外ではレオナは単なるお子様なんだよ!」
母親の言葉に、少女は唇を尖らせつつも「はい。気をつけます。」と小さく返事をした。しかし、デュルゼル達にはそっぽを向き、そのまま墓石に花を供える。
「もぅ!…本当にすみません!」
再び2人に深々と頭を下げるウーナ。
「あ、いや…。」
「お気になさらず、ハハハ…」と笑ったのはローディ。
 
 親子は墓に花を供え、手を合わせた。
 やがて、ウーナが徐ろに立ち上がり、ピッコロを懐から取り出し、奏で始めた。鎮魂曲にしては陽気な曲調だったが、素晴らしい演奏で、デュルゼルとローディは暫しその音色に聴き入った。
 彼女は一通り奏で終えると、また座り直し祈り始めた。
「…オルドスの習わしか?」
「…わからん。」
「お母さんはね、オルドスにいた頃、慈愛を司る神官だったの。」
いつの間にか祈りを終えたレオンティーナが2人の側に立っていた。
「ゲルドの想いはもうないけど、こう言う所って、淋しがり屋の魂が集まって来ちゃうから…。お母さんは今、そう言う魂がちゃんと天国に行けるように祈ってるのよ。あっちの方がお友達がたくさんいて淋しくないよって。」
「もしかして幽霊って奴?」ローディが引きつった笑みを浮かべながら少女に尋ねた。
「うん。ここは小さな子が多いね。だから祈る前に明るい曲で皆を集めたの。」
「…。へ、へぇ…。」
心なしか周囲の温度が下がったような気がした。

 暫く祈りを捧げる母の背を見つめていたレオンティーナだったが、やがて躊躇いがちに話し始めた。
「…あのね、ゲルドをこの世界に送ったのは、私なの。」
2人は少女の言葉に驚いた。
「君はゲルドに会った事があるのかい?」
ローディは尋ねた。ゲルドが命を陥したのは20年前。ちょうど自分が生まれた年だ。しかし、目の前の少女はどう見ても自分より年下だ。一体どう言う事だ――?
「詳しい事はあまり言えないのだけど…異界――魔女の故郷とティラスイールは時間の流れが違うの。お母さんと私達は、ラウアールの波について、あちら側と相談する為、3年間異界に居たの。ティラスイールを出発したのは、私が10歳の時だから961年よ。」
「30年も前じゃないか!」
「その頃からオルドスは動いていたのか…。」
「…ごめんなさい。これ以上は、言えないの。だけど…イザベル達が門を通った時、一度、門は閉じられた。その門を私はまた開けてしまった。」
「門とは、魔女の故郷とこちらの世界を繋ぐ、時空の歪みの事か?」
デュルゼルの質問にレオンティーナは頷いた。
「ゲルドがこっちの世界に行く事を、大人達は皆反対してた。シャルロッテも…。
 シャルロッテは、ゲルドの事、本当に大事に思ってたんだよ。だから彼女は最後まで、私達を止めようとした。でも私達は…。」
 ローディはシャルロッテの方を盗み見た。
 彼女は少し離れた大樹に寄り掛かり、こちらの様子を気にするでもなく、目を閉じ、腕を組み休んでいた。ふと彼女が抱くようにして携えている杖がローディの目に止まった。
 黒っぽい柄の先に楕円形の紫色の鉱石が装着している。遠目な為、細かくは判らないが、鉱石の周りにも何やら凝った装飾が施されているようだった。
「…(珍しい杖だなぁ。)」
人目に付きそうな造形だが、彼女が最初に現れた時、自分はどうしてあの杖に気付かなかったんだろう?ローディはそんな事をぼんやり思った。
 「…だから、ゲルドが死んだのは、デュルゼル様の所為ではなく、私の所為なの。」
少女の緑色の髪が風に揺れた。
「ゲルドはこれから起きる色んな事を教えてくれたけど――彼女自身の旅の終わりについては、私に教えてくれなかった…。」
少女は墓石を見つめながら淋しそうに呟いた。
「怖かったと思う。害周波を出さなくても不安や悲しみは感じるから――私も、害周波を出さない人間だから解るの。」
害周波?聞き慣れないその言葉にデュルゼルは首を傾げた。しかし、少女の話を遮る真似はしなかった。
「私だけじゃない。それまで家族のように彼女を守って来た人達にも…。この世界でも――オルテガ様、私のお父さん、オルドスの――彼女の力になろうとした人達にも。」
ゲルド亡き後、彼女の杖を携えたデュルゼルを見たオルテガは驚愕したと言う。それは、杖に込められていた想いの強さに対してだけではないのだろう。
「…私達には言えなかったんだと思う。
 けど、ゲルドはデュルゼル様にだけ、自分の旅がどんな風に終わるのか伝えた。それは、デュルゼル様に身の危険が迫っている事を知らせる為だけでも、未来を託す為だけでもない。
 あなたなら、恐怖とか悲しみとか怒りとかに負けてしまっている、もう1人の自分を見せても、何も変わらず接してくれると彼女は知っていたから―― あなたこそ、ゲルドと言う“人”の、本当の友達だったから。
 あなたがいたから、彼女は本当の最期の時まで世界を愛する事が出来たんだと思う。――それが世界を救う道に繋がった。」
「…すまんな。だが――君も、友の願いを叶えたかっただけだろう?
 周りの大人は反対していたが、こちらの世界に渡りたいと言う彼女のその願いが、正しい道に繋がっていると、信じていたから。」
「…うん。あの時はそれが正しいと思ってた。…。」
レオンティーナは少し考えた後、「ありがとう。」と言って照れたように笑った。彼女はデュルゼルが何を言いたいのか解った。
 聡い子だ。とデュルゼルは少女の頭に手を置いた。しかし、
「…(害周波か…。)」
――それは、ハックの言っていた負の想念の事ではないか?
 もし、そうなのだとしたら、この娘の言う、ゲルドと同じ害周波を出さないとは――

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序章・第1章をまとめて読む→
#1 春告の求道者 序章〜第1章_ver.女性主人公 | 春告の求道者_ver.女性主人公 - アメンボ - pixiv