アメンボの倉庫

!ご注意!オリ主の登場する二次創作の小説等を置いています。

序章⑩_ver.女性主人公

 やがて――
「相分かった。シャルロッテ・ゲッペウス、楽にせよ。」
フォルティア国王ルドルフの声が厳かに響き渡った。
 その言葉にブリットは剣を収め、息を整える。女は立ち上がり、先程自分が杖を置いた場所に戻った。
「…他に何かあるか?」
女が杖を拾い上げるのを見届けてからルドルフは玉座に座り直し、彼女に声を掛けた。
「いいえ。私の勤めは終わりました。お時間頂けましたこと感謝致します。」
恭しく頭を下げ女が去りかけた時、
「待て。」
ルドルフが女を呼び止めた。女は王のこの行動を予想していなかったようで、不思議そうに振り返った。既に冷静さを取り戻していたブリットも思わず怪訝な表情を王に向けた。
「…天気が良いと、デュルゼルはよく、白き魔女の眠る丘の近くで、弟子に剣の稽古を付けている。」
「白き魔女の眠る丘…。」
女は呟くように王の言葉を繰り返した。そして大きく息を吐き、「お教え頂き、ありがとうございます。」と再びルドルフに向かって深々と頭を下げた。
 頭を上げた女の表情をブリットはよく知っていた。
 自分と王を挟み、睨み合いをしていた時の彼女は人の皮を被った化け物に見えた。しかし、今は、戦や魔獣退治後、帰還した兵の列の中、自分の家族が見当たらず、重い足取りで城門まで来て、そこに張り出された戦死者の名前にそれを見た、遺された者の表情――絶望とそれでもやっと見つけられたと言う安堵の混じったあの表情を女の中に見た。
「ブリット、彼女を城の出口まで送り、丘への道を教えてやれ。」
「…承知致しました。」
ブリットはシャルロッテを先導するように歩き出した。2人は謁見室の扉の前まで来ると、女の方が振り返り、退室のお辞儀をする。その姿にルドルフは立ち上がりもう一度声を掛けた。
大義であったシャルロッテ・ゲッペウス。――心より礼を言う。」

 ブリットは前を歩きながら丘への道を女に教えた。2人は目を合わせようとはしなかったが、女も、素直に彼の後ろを歩き、黙って説明を聞いていた。説明が終わる頃、城の出口が見えた。
「――以上だ。質問はあるか?」
「いいえ。ご丁寧にありがとうございます。」
女はブリットにも深々と頭を下げた。
 皮肉か?ブリットは心の中で呟いた。どうにも本性の解らぬ奴だ。
「…お前、先程陛下に何と言った?何かrb:呪 > まじないの類か?」
「とんでもございません。ただ強いて言えば、魔法をかけたと言うよりは、かけられていた魔法を解いたと言った方が正解に近いやもしれません。」
「何!?それはあの魔女の…ッ」
「いいえ。前王妃の術はとうに消えております。と申しますより元々彼女の術はrb:呪 > のろいのような邪悪なものではございません。」
「どう言う意味だ?いや、待て、お前今…」
前王妃と…
「もし!?シャルロッテ・ゲッペウス様ではございませんか!?」
ブリットが女を問い質そうとした時、1人の老人が2人に近付いて来た。しかし、老人が目の前に来てもシャルロッテは見覚えがないらしく、返答に窮している様子だった。彼女の様子に気付いていないのか老人は顔見知りのブリットにも挨拶をする。
「これはブリット隊長。お話中、大変失礼致しました。」
老人はラウアールの波の件で、オルドスが派遣した神官で、ルード城に滞在していた。表向きはラウアールの波の調査であったが、実際はフォルティアとオルドスの間で取り決められた密約の調整役であった。
「クォーレ殿…。」
ブリットが老神官の名を口にすると、女はとても驚いた様子で身を乗り出した。
「あなた…クォーレ君なの!?」
「そうです、そうです!私です!あぁ、シャルロッテさん…よくご無事で!」
2人は今にも抱擁しそうな勢いで手を取り合った。クォーレは涙まで浮かべている。
 しかし、怪訝そうに自分達を見つめるブリットの様子に気付くと、2人は「失礼」と断りを入れ、少し離れた場所に移動した。そして声をひそめながら話し始めた。
 「いつからこちらに?」「昨日の夜です。」「あの御二人も?」「はい、今宿屋に…。」「あぁ、フォルト様…!」「そうだ、クォーレ君…いいえ、クォーレ様、貴方にお頼みしたい事が…。船が……に…。………。」
「お安いご用ですとも!」
老神官は満面の笑みを浮かべると、嬉しそうに何かを快諾した。
「ただし!貴女はジャムを早く取りに行っておあげなさい!今年も最後の瓶を空けてしまったなんて手紙、もう貰いたくはありませんからね!」
クォーレは人差し指を突き立て念を押すように女に言った。そして、謁見室の方へ歩き出したが、その足取りは軽快で、彼は数十年若返ったかに見えた。
 クォーレの後ろ姿を笑顔で見送った女は、ブリットをもう一度見ると、深々とお辞儀をして城の外に出て行った。雨は止んでいた。

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序章・第1章をまとめて読む→
#1 春告の求道者 序章〜第1章_ver.女性主人公 | 春告の求道者_ver.女性主人公 - アメンボ - pixiv