2021-01-01から1年間の記事一覧
第13節 「先程は大変失礼致しました。私はシャルロッテ。カンドも多少は使えますが、専門はチャッペルの魔法使いです。ラップ先生には10代の頃より大変お世話になっておりまして…。」 落ち着きを取り戻した女はログにそう名乗った。 「村の名前の書かれてる…
第13節 「先程は大変失礼しました。私はローベルト。カンドも多少は使えますが、専門はチャッペルの魔法使いです。ラップ先生には10代の頃より大変お世話になっておりまして…。」 落ち着きを取り戻した男はログにそう名乗った。 「村の名前の書かれてる標識…
第12節 死は平等だ。そして人間は、死んでから漸く平等になれる。賢も愚も、美も醜も、善も悪も、人気者も除け者も――。今は等しく土の中に埋まっている。きっと魂も皆同じ場所に還るのだろう。 墓地の長椅子に座るシャルロッテは、弟が苦心して作ったサンド…
第12節 死は平等だ。そして人間は、死んでから漸く平等になれる。賢も愚も、美も醜も、善も悪も、人気者も除け者も――。今は等しく土の中に埋まっている。きっと魂も皆同じ場所に還るのだろう。 墓地の長椅子に座るローベルトは、弟が苦心して作ったサンドイ…
第11節 「…2人とも大きくなりました。」時が経つのは早い、そうしみじみと語るミッシェルは、父や叔父より祖父の趣きがあった。 「泥棒になってたけどね…。」 「残念ですが、仕方のない事でもあるのです。今のティラスイールで魔術士になるには…。」 魔術を…
第11節 「…2人とも大きくなりました。」時が経つのは早い、そうしみじみと語るミッシェルは、父や叔父より祖父の趣きがあった。 「泥棒になってたけどね…。」 「残念ですが、仕方のない事でもあるのです。今のティラスイールで魔術士になるには…。」 魔術を…
彼が持って来た物、それは彼等の父クラウスが作った水魔法を封じたガラス玉の入った木箱だった。ガラス玉は卵大程の大きさで、箱の中に6個入っていた。 当時、魔法文化が遅れていたティラスイールでは、大魔導師や宮廷魔導士と称される並外れた才能を持つ者…
彼が持って来た物、それは彼等の父クラウスが作った水魔法を封じたガラス玉の入った木箱だった。ガラス玉は卵大程の大きさで、箱の中に6個入っていた。 当時、魔法文化が遅れていたティラスイールでは、大魔導師や宮廷魔導士と称される並外れた才能を持つ者…
ノアベルトは問いただすように旅人に言った。世界はボルトだけではなかった。その事実はノアベルトに希望と絶望を与えた。 海を背にして立つ白亜の宮殿、砂漠に眠る地下迷宮、空が零れ落ちたのかと見紛う程澄んだ湖、その近くに住む純朴で優しい村の人々――世…
ノアベルトは問いただすように旅人に言った。世界はボルトだけではなかった。その事実はノアベルトに希望と絶望を与えた。 海を背にして立つ白亜の宮殿、砂漠に眠る地下迷宮、空が零れ落ちたのかと見紛う程澄んだ湖、その近くに住む純朴で優しい村の人々――世…
第10節 「お魚を分けて下さい。」 シャルロッテが言うと、漁港に停まった船の上で網の手入れをしていた漁師は、姉弟には目もくれず黙って船上の一角を指差した。そこには市場で売れない未利用魚が入ったバケツがあった。 「…全部持ってて良いですか?」 シャ…
第10節 「魚を分けて下さい。」 ローベルトが言うと、漁港に停まった船の上で網の手入れをしていた漁師は、兄弟には目もくれず黙って船上の一角を指差した。そこには市場で売れない未利用魚が入ったバケツがあった。 「…全部持ってて良いですか?」 ローベル…
第9節 早朝、目を覚ましたシャルロッテはすぐに裏の井戸に水を汲みに行った。弟と旅人はまだそれぞれの寝床で寝息を立てている。見上げた薄紅色の空には、月が残っていた。 彼女は井戸の縁 (へり) に腰をかけ、前掛けのポケットから本を取り出した。――『砂…
第9節 早朝、目を覚ましたローベルトはすぐに裏の井戸に水を汲みに行った。脇には、一冊の本を抱えている。弟と旅人はまだそれぞれの寝床で寝息を立てている。見上げた薄紅色の空には、月が残っていた。 彼は、井戸の縁 (へり) に腰を降ろし、持って来た本…
第8節 喉が渇いた。 部屋は薄暗い。既に日が沈んでいるのだろう。 ミッシェルは枕元に置かれた呼び鈴に手を伸ばしかけたが、止めた。 この家に来て3日――大分身体の痛みも和らいで来て、寝ている分には殆ど何も感じない。 子供達は、ミッシェルが大怪我を負…
第8節 喉が渇いた。 部屋は薄暗い。既に日が沈んでいるのだろう。 ミッシェルは枕元に置かれた呼び鈴に手を伸ばしかけたが、止めた。 この家に来て3日――大分身体の痛みも和らいで来て、寝ている分には殆ど何も感じない。 子供達は、ミッシェルが大怪我を負…
第7節 最後にもう1度、ノアベルトは店の出口で振り返り、申し訳なさそうにお辞儀をした。 「…お前を匿った姉弟って、もしかして…。」 少年に向かって、笑顔で手を振るミッシェルに、フロード――トーマスは尋ねた。 938年、ボルト――。 嵐の過ぎ去った早朝の…
第7節 最後にもう1度、ノアベルトは店の出口で振り返り、申し訳なさそうにお辞儀をした。 「…お前を匿った兄弟って、もしかして…。」 少年に向かって、笑顔で手を振るミッシェルに、フロード――トーマスは尋ねた。 938年、ボルト――。 嵐の過ぎ去った早朝の…
「姉さん?」 宿酒場の手洗いに向かったノアベルトは、店の裏に面した小窓を開け、姉が居るか小声で確認した。 「ノア!」 近くで待機していたシャルロッテは弟の顔を見てホッとした様子で小窓に駆け寄って来た。が、すぐに鞄から先程ミッシェルから盗んだ本…
「兄さん?」 宿酒場の手洗いに向かったノアベルトは、店の裏に面した小窓を開け、兄が居るか小声で確認した。 「ノア!」 近くで待機していたローベルトは弟の顔を見てホッとした様子で小窓に駆け寄って来た。が、すぐに鞄から先程ミッシェルから盗んだ本を…
「僕たちが聞いた話だと魔導士としての力は勿論、政治家としても素晴らしい人だって…。アンビッシュの人から見た彼はどんな人?」 アンビッシュ戦後復興の尽力者の1人として、彼の名を挙げる者は国内外でも多い。 「…は、はい…。モリスン様は――。(モリスン…
「僕たちが聞いた話だと魔導士としての力は勿論、政治家としても素晴らしい人だって…。アンビッシュの人から見た彼はどんな人?」 アンビッシュ戦後復興の尽力者の1人として、彼の名を挙げる者は国内外でも多い。 「…は、はい…。モリスン様は――。(モリスン…
第6節 「宿酒場 (ここ) の料理は何でも美味しいけど、おすすめは、この、山鳩のパイシチューですね!」 「鳩…。」 ノアベルトの言葉に3人は顔を引きつらせた。 「え、えーと、アンビッシュは漁業が盛んって聞いたんだけど?」マイルが少年に尋ねた。 「魚…
第6節 「宿酒場 (ここ) の料理は何でも美味しいけど、おすすめは、この、山鳩のパイシチューですね!」 「鳩…。」 ノアベルトの言葉に3人は顔を引きつらせた。 「え、えーと、アンビッシュは漁業が盛んって聞いたんだけど?」マイルが少年に尋ねた。 「魚…
第5節 謁見の予約を終えたミッシェルは、街の掲示板の前にいた。正式な謁見の日時は今日の夕方には決まるだろう。それまでは街の情報収集に時間を費やそう。昼食もまだだ。 掲示板には、魔獣討伐の依頼書から仕立て屋の求人、栄養ドリンクの宣伝まで節操な…
第5節 謁見の予約を終えたミッシェルは、街の掲示板の前にいた。正式な謁見の日時は今日の夕方には決まるだろう。それまでは街の情報収集に時間を費やそう。昼食もまだだ。 掲示板には、魔獣討伐の依頼書から仕立て屋の求人、栄養ドリンクの宣伝まで節操な…
第2節 944年春の終わり――。 その日の朝も彼はテラス席で新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。テーブルにはヴェルトルーナで親しまれている大衆小説――詐欺師フロードの華麗なる冒険・第3巻。彼の上司から“何で鳩が出て来るんだ!?薔薇だけで良いじゃねー…
第2節 944年春の終わり――。 その日の朝も彼はテラス席で新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。テーブルにはヴェルトルーナで親しまれている大衆小説――詐欺師フロードの華麗なる冒険・第3巻。彼の上司から“何で鳩が出て来るんだ!?薔薇だけで良いじゃねー…
第1章『再会』 第1節 開花したばかりの林檎の花は真っ白ではない。花を裏返すと桃色の斑模様がある。この色が付いてる部分は蕾の時に外気に触れている箇所だ。それが徐々に退色し、白くなるのだ。それは、承認欲求と劣等感の塊のような問題児や腕白小僧が…
第1章『再会』 第1節 開花したばかりの林檎の花は真っ白ではない。花を裏返すと桃色の斑模様がある。この色が付いてる部分は蕾の時に外気に触れている箇所だ。それが徐々に退色し、白くなるのだ。それは、承認欲求と劣等感の塊のような問題児や腕白小僧が…