アメンボの倉庫

!ご注意!オリ主の登場する二次創作の小説等を置いています。

第1章①_ver.女性主人公

第1章『再会』


第1節

 開花したばかりの林檎の花は真っ白ではない。花を裏返すと桃色の斑模様がある。この色が付いてる部分は蕾の時に外気に触れている箇所だ。それが徐々に退色し、白くなるのだ。それは、承認欲求と劣等感の塊のような問題児や腕白小僧が、社会の風にさらされ、角が取れて丸くなる姿に似ているかもしれない。
 今、ラグピック村の林檎の花は7分咲きと言ったところか――。
 林檎の仄かな香りが春の草花の香りと混ざり、風に漂う。村の春の香りだ。
 資材集めの為、緑の高原に行くついでに、ラップおじいの家に顔を見せるか…と、ログは思った。
 ログは、多少変な癖はあるものの、この老人が好きだった。老人の語る奇想天外な作り話に、幼い頃はよく心躍らせたものだ。人力でも風力でも魔法でもない動力を持つ船、木で出来た人形兵、水路が頭上にある街――他にもたくさんあるが、ログが好きだったのはこの辺りだ。今思えば、その頃から大工の素養が自分にはあったのかも知れない。

――ジュリオとクリスは、今頃船の上だし、おじいも淋しがってるだろうな。

 思春期になって足が遠のいていたが、大人になった今、久し振りに老人の与太話に付き合うのも良いかもしれない。
 ログは老人が1人で住む村外れの小屋に足を運んだ。

 ラップの小屋の前には、老人の他に先客がいた。
 林檎の花が咲く風景には似合わない、紺色のローブを着た、焦茶色の髪を後ろでまとめた女。彼女は跪き、老人の腹に抱き付き、そこに顔を埋めていた。
 彼女は泣いているようで、ラップが何か一言二言、子供をあやすかのように話しかけている。――ラグピック村あるあるだ。
 ラップがどんな半生を歩んで来たのかログは知らないが、よく彼を訪ねて遠方から人が来る。そしてこんな感じで彼との再会に感涙する。
 今出て行くのもあれかなぁ?と、ログは思い、暫く2人の様子を見守る事にした。
「…。」
……なんかあの女の人、力込め過ぎじゃない?
「…。」
…おじい、ちょっと苦しそうじゃない?
「…。」
これ、ちょっとヤバいんじゃな…ヤバいヤバいヤバい!!このままだと、おじいの背骨がポキッと逝く!
「ち、ちょっと、アンタ、何やってんだ!!」
青年は全力疾走で2人の元へ向かい、力任せに老人を女から引き剥がした。
 そのままラップ老人は地面に手を突き、ゼィゼィと息をしている。
「おじい、大丈夫か!?」
青年はそんな老人の背中をさすってやった。
 息も絶え絶えのラップだったが、顔を上げ、ログを見ると、にこりと穏やかな笑顔を見せて言った。
「あ…相変わらずお元気そうで何よりです。……マクベインさん。それと、ジャンとリック。」
「この短時間で何処で誰と会って来たおじいッッ!?」
「ん?おお、ログか!
 今、向こう岸で懐かしい人が手を振っていてな。…危うく川を渡りかけた。」
「そうか…危なかった…。立てるか?」
正気に戻ったラップが立ち上がるのを手伝いながらログは女の方を見た。
 女は地面にうつ伏せになって倒れていた。
「おい、お姉さんも大丈夫かい?」
「うぅ…大変ご無礼を。…お久し振りです…」
ログが声を掛けると女は反応し、顔を上げた。
「ラッブしぇんじぇ~」
女の顔は涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃだった。
「うわぁ…。」
女の有り様を見てドン引きするログの後ろでは、ラップが自分の着ているシャツにべったりと付いた女の涙と鼻水と涎を見て顔をしかめていた。
「うわぁ…。」

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序章・第1章をまとめて読む→
#1 春告の求道者 序章〜第1章_ver.女性主人公 | 春告の求道者_ver.女性主人公 - アメンボ - pixiv