アメンボの倉庫

!ご注意!オリ主の登場する二次創作の小説等を置いています。

第1章⑤_ver.男性主人公

 「僕たちが聞いた話だと魔導士としての力は勿論、政治家としても素晴らしい人だって…。アンビッシュの人から見た彼はどんな人?」
アンビッシュ戦後復興の尽力者の1人として、彼の名を挙げる者は国内外でも多い。
「…は、はい…。モリスン様は――。(モリスン様か…。)」
その名を口にして、ノアベルトは、心の中で舌打ちをした。
「(…まぁ、当たり障りのない事を言えば良いか…。)アンビッシュ国内での評判も良いですよ。特にここアンデラでは。
 彼は自邸の使用人にはアンデラの住民を雇い入れてますが、庶民にただ働く場を提供するだけでなく、働く者が今後どこへ行っても通じるよう、専門の講師を定期的に呼んで、一般教養やマナーを身に付けさせるそうです。なので自分の娘を花嫁修行の一環として彼のお屋敷に奉公させたがる人が多いんですよ。
 また、お城で働く偉い人の中には自身の護衛に外国出身の兵士が就くとあからさまに嫌な顔をされる方も多いそうですが、モリスン様はそのような事は一切なさらず、誰に対しても分け隔てなく接するそうです。…けど、その事でモリスン様を外国のスパイだって言う人もいます。」
「そうなの?」
「…僕は、それは考え過ぎだと思いますけどね…。モリスン様は国王陛下の側近でありながら新王国擁立論者でもありますし、多分そう言った事が原因なんじゃないかな?」
「そうですか…。」
ミッシェルは難しい顔を浮かべて言った。その様子を見ていたノアベルトはミッシェルの顔を覗き込むように尋ねた。
「――で、ミッシェルさんの謁見の目的って何なんですか?」
少年の瞳には好奇心と使える情報は引き出したいと言う強かさが見え隠れしていた。しかし、好奇心は猫を殺す。
「ええ、拙著をモリスン様に読んで頂きたくて…。あ、折角なのでお見せしますね。」
そう言ってミッシェルは足元に置いてあった自分の鞄に手を伸ばした。それを見て、ノアベルトはギクッとする。少年は自分が墓穴を掘ってしまった事に気付いた。
「おや?どこにしまったかなぁ??」
と、ゴソゴソと鞄の中を探すミッシェル。ノアベルトは慌てて言った。
「そ、そうだ!これは、アンデラの掲示板にはまだ載っていない情報なんですが――。」
とっておきの情報――ミッシェルは手を止め、姿勢をテーブルの上に戻した。
 「1週間程前から、ボルトの沖合に謎の大型船が停泊しているんです。
 僕も、その船を実際に見たのですが…長期漁用の漁船なんか目じゃない、その船は家のように…いや、ボルトのどの家よりも大きく…。」
陸路が続くティラスイールは、他の2つの世界と比べ、海運業の発展が著しく遅れており、それに伴って造船技術もまた未熟だった。
 その為、その船を見たボルトの人々は当初それが船とは分からず、ボルトではほぼ伝説に近い海獣・ガルガの来襲と思い、町一帯に緊急避難勧告が出された。
 丘の上に避難した住民達の中で1番視力に自信のある者が代表し、当時の貴重品であり町の代表者の家に1つしかなかった双眼鏡を覗き見た先に映ったのは、
「黒い帆に、ドラゴンと髑髏のマーク――。」
「「ゴフッ!」」少年の言葉にアヴィンとマイルは口の中の飲食物を危うく吹き出しそうになった。
「だ、大丈夫ですか?」ノアベルトは未使用のお絞りを持って来て2人に渡そうとする。「ああ、いや…、…ありがとう。」むせる2人の代わりにそれを受け取ったのは苦笑いを浮かべたミッシェルだった。
 3人の反応を自分なりに解釈したノアベルトは言った。
「驚かれるのも無理はないですよ!僕もこの目で見た時はびっくりしました!まるで物語に出てくる海賊船そのものなんです!」
ミッシェルは、少年の目がキラキラ輝いている事に気付いた。それは先程とは異なる純粋なもので遠い世界、冒険に憧れる若者の目だった。
 海賊船そのもの…その言葉に広げたお絞りを顔に当てていたマイルが激しく咳き込んだ。
 この大人達の反応を、夢見がちな年少者への対応と取り違えた少年は萎縮してしまったようだ。
「…けど、僕も、ボルトの人達も、変わり者のギドナの商人の船だろうと思ってるんですけどね…。」
情熱を手放した少年の目からは輝きが失われ、彼は1日の生活に追われる現実に戻って来る。そして自分に言い聞かせる、自分は賢明だと。
「分かりませんよ?もしかしたら本当に海賊の船かも。」
ミッシェルの言葉に少年は首を横に振った。
 ティラスイールの歴史において、先に述べた理由から海賊と言うのもまた稀有な存在であり、また、その多くは、自国が戦争に巻き込まれたり、飢饉や流行病の発生で仕事にあぶれ、生活苦から仕方なく身を落とした者達だった。海賊は集団で他の漁船に対して掠奪行為を繰り返したが、彼等は哀れな社会的弱者であり、物語のような胸躍る冒険、金銀財宝の眠る宝島、恐ろしい怪物との邂逅と言った浪漫とは無縁の存在だった。
 きっとあの船も、奇を衒う事が好きな豪商が、贅の限りを尽くして作った私用の船、あるいは何かの販促用の船だろう。ボルトの掲示板に貼られていたチラシの内容からして後者の可能性が高い、と、ノアベルトは考えていた。それでも――

――それでも、僕は羨ましい。
 お金があれば、夢だって買える。
 その為には魔法で食べていけるだけの技術と呪文を手に入れないと…。その為には――。

 「…船が停泊してから、ボルトの掲示板にこんなチラシが貼られるようになったんです。
 ご自由にお待ち下さいとの事だったので、1枚貰ってきました。」
アベルトは鞄の中から1枚のチラシを取り出し、テーブルの上に置くと、
「ちょっと、お手洗いに行ってきます。杖はここに置いて行きますね。」
と言って、鞄だけ持って席を立った。
 残された3人が置かれたチラシを覗き込んでみると――
 
 『対魔法使い戦の得意な人募集!
 求人内容:私たち(海賊)の仕事を邪魔する白い船との白兵戦において、やたら長い名前の魔法使いを倒してくれる人を探しています。
 ※動きを封じてくれるだけでも良いです!
 勤務時間:1日0h~24h
      週1日から相談可
 給与:あなたの能力次第です!!
 お問い合わせは黒竜号まで→週2日、港から小舟が出てます!
 ドラゴンと髑髏のマークの黒い旗が目印です!』

 チラシはクレヨンで描かれた可愛らしいラッコと波を模したであろう水色の3本線で縁取られていた。
「……頭痛くなってきた…。」
アヴィンが呟いた。

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序章・第1章をまとめて読む→
#1 春告の求道者 序章〜第1章_ver.男性主人公 | 春告の求道者_ver.男性主人公 - アメンボ - pixiv