アメンボの倉庫

!ご注意!オリ主の登場する二次創作の小説等を置いています。

第1章④_ver.男性主人公

第6節

 「宿酒場 (ここ) の料理は何でも美味しいけど、おすすめは、この、山鳩のパイシチューですね!」
「鳩…。」
アベルトの言葉に3人は顔を引きつらせた。
「え、えーと、アンビッシュは漁業が盛んって聞いたんだけど?」マイルが少年に尋ねた。
「魚料理もおすすめですよ。けど、料理人の腕がどんなに良くても獲れたての鮮魚の味には敵いません。海の幸を召し上がりたいのであればやっぱりボルト!アンデラで食べるのであれば山の幸、山鳩です!」
「アンビッシュ育ちの方は、海と山、両方の本場の味を子供の頃から召し上がっているので、舌の肥えた方が多いんですよ。それに、料理上手な方も。」ミッシェルがアヴィンとマイルに補足説明を入れた。
「皆さん、鳩料理はお嫌いなんですか?」ノアベルトは少し残念そうな顔で3人に尋ねた。
「いや、嫌いって言うか…。」
「実を言うと、僕たちの他にもう1人、後から来る予定なんだ。その人、伝書鳩をいつも連れ歩くくらい、その…、鳩を愛してるって言うか…。」
「そうなんですか?じゃぁ、この白鷲の…」
「白鷲もダメッ!!」
「へ、へー…、アンビッシュって、白鷲が居るんだ…。」
結局、4人は獲れたての湖魚料理を注文した。

 「ところで、ミッシェルさんは魔法使いですよね?やはりアンデラには宮廷魔導士様の採用試験の為にいらっしゃったんですか?」
運ばれて来た料理をつまみながらノアベルトはミッシェルに尋ねた。
「そうですね…宮廷魔導士モリスン様とお会いしたいのは事実ですが、目的は宮仕えのお願いではありません。」
「え?そうなんですか?」
「…。ノアベルト君、君に少し聞きたいのです。――アンビッシュ王国の北西に位置する、無主地帯について。」
「え?…ええっと、魔女の塔がある辺りの事ですか?」
 各地に残るシャリネの整備が進んだのは950年代に入ってからだ。また、オルドス建国以前、シャリネは司る属性ではなく、イグニスのシャリネ、ディーネのシャリネ等、地名を冠した呼称が一般的だった。
 しかし、例外的に空のシャリネは地名ではなく、その形状と魔女が作ったとされる伝承から魔女の塔と呼ばれていた。
 これは空のシャリネが無主地帯と呼ばれるアンビッシュ北西からメナート南西に位置する特定の領主を持たぬ土地に存在していた事も大きい。後にオルドス領、チャノム領となるこの一帯は、944年当時、それぞれ代表者はいるものの特定の国に属さない小さな村々が点在するのみだった。オルドスが建国されるのは958年。ダイスとダースを合わせてチャノムとして正式に独立するのは972年以降である。
 ミッシェルは続けた。
「はい。メナートでは、この無主地帯に関して、自国の領土にするべきと言う意見…所謂、領土拡張論と、新たな君主による新たな国造りに協力し、建国時より強固な同盟関係を結ぶ事で諸外国の動きを牽制するべきと言う新王国擁立論とがあり、この2つの意見が対立しているとの事でした。アンビッシュでは如何でしょうか?」
「うーん…。僕は政治の事はあまり詳しくないんですが…」
と、口では言ったものの、実際ノアベルトは14と言う彼の年齢にしては政治に詳しかった。それと言うのも、こう言う仕事をする際、時事には聡い方が色々便利なのだ。なので政治的な情報も一通り仕入れていた。
「アンビッシュでも似たような感じですね。どちらの意見が多いかと言えば、世論を含め自国の領土にした方が良いと言う意見の方が多いと思います。新しい王様がどんな人になるのか、本当に仲良くしてくれるか分からないし…ほら、あの辺って海抜が低かったり沼地が多かったりで作物を育てる環境ではありませんし、お腹が空いたら国土が豊かな隣の国を攻めてくるんじゃないかなぁって。」
「…なるほど。ちなみにですが、無主地帯での作物…食糧問題や経済的問題を解決出来れば、世論は変化すると思いますか?」
「うーん…。どうだろう…。
 …結局、アンビッシュの領土にするにしても、新しい国を造るにしても、躊躇してる理由がそれらの問題である事は同じですし、躊躇する理由がなくなればそれこそ世論は領土拡張論に傾くんじゃないかな?
 これはやっぱり…50年前に起こったメナートとの戦争の経験が大きいかと…。」
 50年程前、アンビッシュとメナート間で、ロップ島の領有権を巡る戦争が起きた。その主な原因の1つが、メナート国内の貧困問題である。この戦争は他国の介入もあり、ロップ島を国際管理地域に指定する事で1つの結末を迎えた。アンビッシュの一般庶民の感覚からしてみれば、いきなり外国から喧嘩は吹っ掛けられるわ、今まで地元の漁師間でなぁなぁにしていたロップ島での漁業も法律でガチガチに決められるわで堪ったものではない。その為、アンビッシュ国内世論は新王国擁立論にやや懐疑的なのかもしれない。
「…そうですか。…ところでノアベルト君…」少年の話を聞いていたミッシェルは、
「よく勉強されてますね!」と言って満足そうににっこり笑った。
「うん。こんな事に使うのは勿体ない!」とアヴィン。
「え?」ノアベルトがアヴィンの言葉を聞き返そうとすると、
「ねぇねぇ、ノアベルト君!モリスン様について聞きたいんだけど良いかな?」すかさずマイルがフォローに入った。

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#1 春告の求道者 序章〜第1章_ver.男性主人公 | 春告の求道者_ver.男性主人公 - アメンボ - pixiv