アメンボの倉庫

!ご注意!オリ主の登場する二次創作の小説等を置いています。

序章⑪_ver.女性主人公

第6節

 「シャルロッテ・ゲッペウスは陛下に何と言ったのだろう?」
ブリットの話を聞き、デュルゼルは呟いた。
「すみません…。口元を手で隠され、読唇も出来ませんでした。」
申し訳なさそうに言うブリットに、デュルゼルは慌てて自分の意図を弁明する。
「いや、お前を責めている訳ではない。
 …それに、陛下のご様子を見るに、お前が気に病むような事もあるまい。お前は見事王を守り抜いたのだ。」
「…。」
デュルゼルの言葉に、ブリットはあの日の出来事を思い出す――

 「本日の謁見はこれにて終了です。」
「ご苦労。」
シャルロッテに続き、クォーレを見送ったブリットが謁見の間に戻ると、王は彼を労った。
 ブリットは敏速な動きで王に頭を下げる。
「…ブリット。」
王に名前を呼ばれ、顔を上げた。その目に飛び込んで来た王の姿にブリットは釘付けになった。
 雨も止んだ空からは春の日差しが顔を覗かせ、窓から謁見室に差し込んでいた。その光に包まれるようにしてルドルフ王が玉座に座り、温かな微笑みをこちらに向けていた。
「お前にも、礼を言わねばな…。
 ――先刻、お前が見せた働き、素晴らしかったぞ!これからも我が盾となり、大いにその武勇を奮っておくれ。」
 英雄不在と言われた3年、ルード城を守り抜いた彼に向けられし王の賞賛は、本物だった。
 ブリットは固辞するであろうが、彼もまた英雄なのである。



第7節

 ルドルフは城の窓から庭を眺めていた。
 少し前までは丸裸だった樹の幹も今は黄緑色の若葉を着て踊っている。生まれたての若葉は春の嵐に晒されながらも懸命に生きていた。
 直に彼の瞳の色の季節がやって来る。
 ルドルフはシャルロッテ・ゲッペウスの言葉を思い返していた。

 「――然る御方より伝言を承っております。
 フォルティア、ルード城に住むルドルフと言う名の男に必ず伝えよと――。

 『私はあなたが幸せであること、幸せであり続けることを願い、祈り続ける。』――」

 イザベルの所持していた蔵書も庭に植えた花も全て処分してしまった。思い出の品は、もう何も残っていない。 
 彼女の事が許せなかった訳でも、彼女の事を忘れたかった訳でもない。だが、こうする事で、臣下が安心し、国が治まり、国民が平和に暮らせるのであればそれで良いではないか。それが王に生まれた者の役目であり、唯一手に入れる事の出来る誉れではないか。
 そう自分に言い聞かせた。しかし、心は彼女を求め、彷徨い歩き、辿り着いた先は、過去だった。幸せは過去にあるはがりだった。

 雲に覆われた白い空を見上げ、ルドルフは心の中で呟いた。

――いつだったか、君は言った。願いは、時に魔法をも凌駕するのだ、と。
 ならば、私も願おう。
 君が幸せであるように。国や世界や立場など関係ない、本当の幸せを手にする事が出来るように。明日も明後日も願い、祈り続けよう――。

 どうかこの祈りが碧落の地の彼女に届くように――。ルドルフは執務室に向かうべく廊下を歩き出した。
 暫くすると、昨日、散歩の最中、自分が立ち止まったある場所が窓から見えた。
 そこは、イザベルが植えたクチナシの樹が以前あった場所で、今は何もない。
 イザベルは花が好きだった。彼女は何の変哲もない野花にすら感動していた。彼女の故郷にはあまり花が咲かないからと――。ルドルフはそれまで全く興味がなかったが、彼女の影響でどうにか何種類かの花の名を覚えた。

――次に何を植えるか、昨日の夜、色々考えたんだが、結局、薔薇に落ち着きそうだ。
 …安直過ぎるだろうか?君に内心どう思われるか、心配ではあるのだが…。
 レバス…アイツなら確実に呆れた顔をするだろうなぁ…。
 だが、赤ではないぞ?君をよく知らぬ者は赤を選ぶと思うが…。レバスや私に、君が時折見せた、あのはにかんだようなあの笑顔には、小振りの淡い桃色の薔薇が似合う。良い香りの、棘のない、愛らしい薔薇。
 君の笑顔のような花を植えようと思う。

――さてと。

 扉は勢いよく開かれた。
「さぁ!仕事を片付けるぞ!」
大臣家臣が居並ぶ執務室に、フォルティア国王ルドルフの溌剌とした声が響いた。

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序章・第1章をまとめて読む→
#1 春告の求道者 序章〜第1章_ver.女性主人公 | 春告の求道者_ver.女性主人公 - アメンボ - pixiv