アメンボの倉庫

!ご注意!オリ主の登場する二次創作の小説等を置いています。

序章⑫_ver.女性主人公

第8節

 ルカが甲板に出ると、懐かしい曲が耳に入って来た。
 穏やかな曲だが、何処か郷愁を感じさせる。
「(違う世界の曲なのに心に響く感覚は変わらないんだな――。)」
 音楽が聴こえて来る方へ進むと、奏者は船尾に繋がる階段に腰を下ろしていた。肩には鳩を乗せている。
「レオナちゃん。」
ルカに呼ばれ、レオンティーナ――レオナは手琴を奏でる手を止め、人懐っこい笑顔を向けた。
「キャプテン!」
「練習かい?偉いね。」
頭を撫でると嬉しそうに目を細めた。そして、「ポピも撫でてあげて。」と肩に乗っていた小さな友人をルカに差し出した。
ポピは、彼女の曾祖母のように純白ではなく、右の羽根に薄茶色の斑があった。その斑を「ハートでかわいい!」とレオナは気に入っていた。
「ポピも偉い偉い。」
喉を撫でるとポピは気持ち良さように目を細めた。――やっぱり似るもんだなぁとルカはそっと感心する。そして辺りを見回し、レオナに尋ねた。
「ウーナさんとシャルロッテさんは?」
「ラエル様のお部屋。」

 プラネトスIV世号の一室――。
「あぁぁあああ!終わらないッ!」
ラエルは両手で頭を抱えながら叫んだ。
「オイラ…エレノア先生に殺される!!」
そのまま大魔導師はテーブルに突っ伏し、いずれ到来する惨劇に、身を震わせ、涙を流した。
 テーブルは部屋の真ん中に置かれ、卓上には魔導書やレポート用紙やらが乱雑に積まれている。その山の間からウーナが顔を出した。
「ラエルさん、諦めちゃダメ!まだ時間はあるわ!とにかく手を動かしましょう!」
反対側の山からシャルロッテの声がした。
「エル・フィルディンを代表する大魔導師ラエル様のレポート作成のお手伝いなんて…。そもそもご契約頂いております私の業務範囲ではありませんよ?これは魔法大学校に別途請求させて頂きます。」
筆を走らせながらも軽口を叩くシャルロッテをウーナは諌める。
「もぅ!シャルロッテさんもこんな時に意地悪言わないのぉ!」
船に戻り、ウーナの口調は神官としてのそれから普段のそれに戻っていた。
 ウーナとシャルロッテはラエルが魔法大学校に提出せねばならない異界魔法に関するレポートの作成の手伝いをしていた。本来、彼1人で作成すべきものだが、こう言った業務が苦行以外の何物でもないラエルは、異界でもこの作業を先延ばしし、結果、長期休暇の宿題を休暇の最終日にやる子供状態になっていた。オルドスはエル・フィルディンの魔法大学校と建国時より協力関係にあり、今回の異界派遣の件でも、大学校には多大なる支援と協力を賜ってしまった手前、ウーナは大学校側の代表者であるラエルをぞんざいに扱えない…と、言うのは、建前であり、真相は、にっちもさっちも行かなくなったラエルが人の良いウーナに泣きつき、側でボーッとしていたシャルロッテがとばっちりを受けただけである。
「そうだよ、シャルロッテ!仲間が窮地に立たされていると言うのにそれをエサに金銭を要求するなんて意地汚いよ!魔法を扱う者のする事じゃない!オルテガ様も泣いてるよ?恥を知りなさい!」
「「手を動かしなさいッ!」」
「はい…。」

 「ラエル…。」
ルカには、親友の部屋で今現在交わされている会話の内容まで視えた気がした。
「2人に何か用?」レオナが尋ねた。
「ううん。そろそろウドルの海域に入るから知らせておこうと思って。」ルカは答えた。
「そっか…。」
ウドル領で接岸出来る適当な場所にオルドスの3人を降ろしたら、プラネトス号は1度そのままテュエールに帰港する。ルカ達とは暫しお別れだ。
「キャプテン…、最後にドルフェスに寄ってくれてありがとう。わがまま言ってごめんなさい。」
「ゲルドちゃんにお別れ出来た?」
「うん。」
「良かった。」
 
 船が魔女の海に転送された時、突然、レオナがデュルゼルに会いたいと言い出した。
 彼の名は、ゲルドの予言から知っていた。
 ゲルドは彼を自分の人生でかけがえのない人だと言って、彼に会う事を楽しみにしている様子だった。
 彼に会うのは、オルドスへの報告が終わってからで良いではないかと母も言ったし、レオナ自身もそちらが正しいと思った。
 しかし、船長であるルカはフォルティア王国ドルフェス行きを決めた。異界とは時間の流れが違う。自分達は現在のティラスイールの現況を知っておいた方が良いと言う理由で――。
「流石ルカ!オイラ、久しぶりにプティング食…いや、市場で聞き込みするよ!」
「では、折角なので私も頼まれた伝言をルドルフ王にお伝えしますか…。」
ラエルの目論見は崩れたが、彼等が注意を引き付けてくれたお陰で、レオナ、ウーナ、シャルロッテの3人は魔法も使わず平和的に船を抜け出す事が出来た。
 そして、ゲルドの丘を偶然知った。
 クォーレとも再開出来た。彼はドルフェス港でレオナを見ると焼き菓子の入った袋をくれた。久し振りの故郷の優しさ () だった。
 しかし、レオナの友達に石を投げたのも、この優しい故郷 (世界) の人々だった。

 ルカの背を見送ると、レオナはまた手琴を奏で始めた。
 春のうた――ヴェルトルーナのハープ独奏曲で彼女の曾祖父の十八番であった。
 楽器を奏でている時、レオナは自分自身と対話をする。

――シャルロッテはゲルドとお別れ出来たのかな?
 
 彼女はゲルドの墓に花を手向けようとはしなかった。もう魂はないからと言う理由で。

――ペンダントも。
 
 全部終わったらくれると約束していたのに、結局、「そんな約束しましたっけ?契約書はお持ちですか?」とはぐらかされてしまった。
 
 シャルロッテは、この世界を、たかだか1人の小娘の魂によって生き長らえた死に損ない、と称した。
 
 レオナはデュルゼルとの会話を思い出す。

 「――君も、友の願いを叶えたかっただけだろう?
 彼女のその願いが、正しい道に繋がっていると、信じていたから。」
「…あの時はそれが正しいと思ってた。…。」
レオナは、彼が自分を慮って言ってくれている事が判っていたから言えなかった。

――けれど今は、本当に正しい事をしたのか、判らない。

――シャルロッテは、この世界と仲直り出来るのかな?そして私も…。
 …ちょっと、心配…。

 人が抗おうが世界は進み続ける。
 昨日の嵐が嘘のように海は静かに凪いていた。


 稀代の英雄、大魔導師オルテガ――。
 彼と比肩される妖術使いゲッペウス――竜を自在に操れた。命を奪った者達の魂を宝石に変え、持ち歩いていた。異なる世界から来た悪魔だった。元はオルテガの弟子の1人だったが、己の欲望から人を殺め、破門になった。何百年も生きた老人だった。才気煥発な青年だった。美しい娘だった――ゲッペウス伝説には様々なものがあるが、その真実はこの魔術士が955年を期に歴史の表舞台から姿を消した事で、未だ不明のままである。

 そして、この物語もまた、そんな数ある
語り継がれた御伽噺 (伝説) ”の1つに過ぎない。

続き→第1章①_ver.女性主人公 - アメンボの倉庫

序章・第1章をまとめて読む→
#1 春告の求道者 序章〜第1章_ver.女性主人公 | 春告の求道者_ver.女性主人公 - アメンボ - pixiv