アメンボの倉庫

!ご注意!オリ主の登場する二次創作の小説等を置いています。

序章⑥_ver.女性主人公

 「貴女に、伺いたい事がある。」
祈りを終えたウーナにデュルゼルは声を掛けた。
「ラウアールの波の消滅方法――オルドスは、どこまで把握していたのだ?」
「…。」
 ウーナ一行が異界へと派遣された961年、その時点でオルドスはほぼ全てを把握していた。
 ラウアールの波の消滅には、正の想念――害周波を出さぬ者の魂を捧げなくてはならない事。当時、その適合者は、あちらの世界とこちらの世界合わせて5人いる事――異界にいる2人の女王候補、ヴェルトルーナのシュルフの姉弟、そしてレオンティーナ。
 水底の民でもない夫と自分の娘にその性質が備わっている事について、オルドスの学者達は闇の太陽と異界の月、双方の力を短期であれ、成長期に間近で浴びた為と推測した。
 身近にレオンティーナが存在したからではなく、より広い人道的な理由からだが、オルドス中枢部は、ラウアールの波について、静観に近い対応を取る事を決めた。しかし、だからと言って、彼等が事の成り行きに身を任せ、ただ指を咥えていた訳ではない。異界にウーナ達を送ったのもまた、その一環だ。
 そして、デュルゼルの話や、ここに来る前にこの世界で仕入れた情報によると、ラウアールの波は戦争が実際に起きる前に発動した。これは黒き波の儀式の手順と異なる。
 それはつまり、自分達が異界へ渡った後、あの機器が完成したと言う事だ――。

 ――空のシャリネを戴くオルドス大聖堂。
 緻密に計算された堂内は、太陽の眩い光に照らされ、大聖堂のもう1つのシンボルとも言えるパイプオルガンもまた、神々しく輝いていた。
「……。」
真実を司る神官フォルトは、その鍵盤の端を優しく撫でた。――

 「…申し訳ございません。今は、お答えしかねます。」ウーナは静かに言った。
「いや、貴女の立場と言うのも解っているつもりだ。失礼した。」
デュルゼルはウーナに軽く頭を下げると、それ以上何も尋ねなかった。
 デュルゼルは、シャルロッテ・ゲッペウスを警戒していた。
 彼女は先程からゲルドの墓から少し離れた大樹に寄り掛かり休んでいた。目を閉じ、腕を組み、傍目からは雇い主の用事が済むのをひたすら待っているだけのように見えた。デュルゼルは次に彼女が抱くようにして携えている杖に目をやった。どこにでも売っている白銀の杖だった。
「…。(随分と古風なやり方だな。)」…まぁ、レオンティーナの話が本当ならば彼女も30年前の人間なのだから当たり前か…。と、デュルゼルは1人思った。
 正確にはそれは幻術が施された、白銀の杖に見える何かだった。相手に伝わる幻術、殊に自分の武具を下位の物に変える幻術は、牽制と同時に、お互い戦闘を避け、穏便に事を進めたいと言う術士からのメッセージを意味した。

 オルドスと交わした契約書には、ウーナ達の任務遂行の障害となる恐れのある人物に対してはいかなる魔法の使用も許可するとある。他者と秘密を共有する事は、協力関係を得るだけでは済まない場合もあるが、今回、自分が不要な労力を使う必要は概ねないだろう。
 シャルロッテはゆっくり目を開けた。
「それにしてもゲルド…。」
 自己犠牲は世界の在り方を容認したに過ぎない。そしてその考えは、新たな犠牲を生む。遺された者達が美談として涙を流すのは勝手だが、涙で目が曇っている内は根本的な変革が必要なそのシステムを見逃し、そうこうしている内に世界はまた贄を欲するだろう。
――数の問題ではない。お前は人の魂より世界を選んだ。その行動が何より、人を否定している事にお前は気付かなかったのか?それとも、この世の誰より、お前が一番、人を憎んでいたのか?
 シャルロッテ琥珀色の瞳の中に、一瞬、金色の帯が揺らめく炎のように走り、彼女は抑揚のない低い声で呟いた。
「馬鹿な娘だ――。」

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序章・第1章をまとめて読む→
#1 春告の求道者 序章〜第1章_ver.女性主人公 | 春告の求道者_ver.女性主人公 - アメンボ - pixiv