アメンボの倉庫

!ご注意!オリ主の登場する二次創作の小説等を置いています。

序章⑦_ver.男性主人公

 「せっかくの鍛錬中にお邪魔してしまい、申し訳ございませんでした。お時間を頂けた事に感謝致します。」
ウーナは2人に丁寧に礼を述べた。
「もう良いのかい?積もる話しもあるだろうから、茶でも飲んでゆっくりしてけよ。俺もゲルドさんの話しもっと聞きたいし…。ジョアンナさんの作る焼き菓子は旨いぜ?」
「…俺の家を使うのか?…まぁ良いが。」
2人のやり取りを微笑ましそうに見つめながら、
「御心遣いありがとうございます。…ですが、船を待たせておりますので、またの機会に致しましょう。」と、本当に残念そうな顔でウーナは言った。そしてローベルトを呼ぶ。
 ローベルトはすぐにウーナとレオンティーナの後ろに現れた。
 現れた彼を見て、ローディは首を傾げた。彼の杖がどこにでもある白銀の杖に変わっていたからだ。
「…あんた、いつ杖を持ち変えたんだ?さっきはもっと黒っぽいヤツだったろ?」
ローディが疑問を口にすると、
「ほぉ!」「まぁ!」
ローベルトとウーナが同時に反応した。2人は驚きと喜びの混じった表情をしていた。
「ローディ様、凄い!やはり普通の剣士様とは違うのねぇ…。」
「え?え?」
ウーナの言葉に狼狽えるローディ。デュルゼルがそんな彼に声を掛けた。
「ご婦人はお前が幻術を見破った事に驚いているのだ。」
「え?幻術?」
デュルゼルの言葉に合わせてローベルトの白銀の杖が別の物へと変わる。
 本当の姿を現したその杖は、黒い柄の上部に、楕円型に加工された紫色の鉱石が取り付けられ、その鉱石を守るように巻き付いた翼を生やした蛇の装飾が施されていた。先程、レオンティーナと話している時にローディが見た杖だ。
 幻術と言えばカジムだが、彼との戦いで自分の中で何かが覚醒した?
「…いやいやッ!俺は幻術って見抜けなかったし!」ローディは慌ててその考えを否定した。
「俺は彼が幻術を使い、杖の形状を変えている事は解っていたが、本当の形状までは見抜けなかったぞ?」
そう言うデュルゼルの顔はどこか嬉しそうだ。
「ねぇ、ローディ様。」レオンティーナがローディを見上げて言った。
「今度ローベルトにも手合わせをお願いしてみたら?魔法使いとの戦闘訓練も必要でしょ?」
「それは良いですねぇ!」
幻術を看破られたローベルトも話に乗って来た。彼は心底楽しそうで、今の彼には嫌味を感じない。意外と好戦的なのか?とローディは思った。しかし、
「検体は多い方が私の古代魔法の研究も進むと言うもの!幻術の力を中弱程度に抑えていたとは言え、真の姿まで見破る剣士が、どれ程古代の力に耐えられるか…いや、待てよ?もしやあの時の影響が彼に…ああ、そう言う仮説も考えられるなぁ!…うわぁ、絶対面白い!」
「…。」
「あ、どうです?その命、私に預けてみませんか?魔術史に名が残るチャンスですよ?」
「嫌です。」
ローディはきっぱりと言った。
「怖くないですよ?私、生涯、オルドスの監視下にあるんでそんな危険な実験は出来ません。」
「生涯一国の監視下に置かれる程に何したんだよ!?余計怖いわッ!」
残念ですねぇ…と目に見えてがっかりするローベルトを尻目にローディは思い出した。

――そう言えば子供の頃、古の力を得る為に何人もの人間の魂を奪ったって言う悪い魔法使いの話しをじっちゃんから聞かされたなぁ。そいつは仲間にも手を出したって――。

「まぁ、研究の事はさておき、若い方との手合わせは私にとっても良い刺激になるので」

――オルテガ伝説の1つだったか?

「いつでもお相手しますよ?気が向いたら訪ねて来てください。」

――確かその魔法使いの名前は――。

「その時は――」

――そもそも魔法使いだっけ?

「ゲッペウスの妖術、お見せしよう――。」

「え?」
 ローディの中で点と点が線で繋がったのも束の間、その意味した事が彼の記憶の海から浮上する前に、ローベルトは杖をかざし、3人は白い光に包まれた。
「それでは。またお会い致しましょう――。」
ウーナが頭を下げたのを最後に、3人はその場から消えた。
 後には、まだ肌寒さを残す春の夕風がそよぐばかりだった。

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序章・第1章をまとめて読む→
#1 春告の求道者 序章〜第1章_ver.男性主人公 | 春告の求道者_ver.男性主人公 - アメンボ - pixiv