アメンボの倉庫

!ご注意!オリ主の登場する二次創作の小説等を置いています。

序章⑧_ver.女性主人公

第4節

 「――そうか。そのような事が…。」
場面はルード城の謁見室に戻る。
大義であった。」
王の言葉にデュルゼルは頭を下げた。
「今一度、オルドス側に確認を取るしかないか…。」
ドルフェス港の大型船の件も含め、オルドスに確認中ではあるが、問い合わせてから日も浅く、返答はまだない。
「“ゲッペウス”か…。」
王は思案げに顎を撫でた。
「陛下は、彼女の事をご存知なのですか?」
「いや、お前と同様この前初めて会った。しかし…あの時は気付かなかったが…。
 お前達、『妖術使いゲッペウス』と言う童話を知らないか?」
王の唐突な質問にデュルゼルとブリットは顔を見合わせた。そして少し間を置いてからブリットがあっと声を上げた。
「もう20年近く前の話しですが、同期が幼い弟妹の誕生日にそのような本を買っておりました。当時人気で手に入れる為に何軒か道具屋を共に梯子した記憶がございます。確か伝説の悪い魔術士でしたよね?大魔導師オルテガに倒されたと言う。」
 大魔導師オルテガと妖術使いゲッペウス――。2人の対決を描いた物語は子供向けから大人向けまで数多く存在する。結末も様々で、物語の最後、ゲッペウスがオルテガの手によって討死するもの、異なる世界へ封印されるもの、はたまた改心し、弟子となり、新たに現れた邪悪で巨大な存在を2人で打ち倒す等――。しかし、その一方で、史実に基づいた資料に乏しく、基となった人物がどのような人物なのか、そもそもそんな人物がいるのかすらも疑わしい。
「あの物語に出てくる妖術使いの基となったのは、アンビッシュ王国顧問のモリスン殿だ。」
ルドルフの言葉に2人は驚く。
「そうなのですか?随分物語と印象が異なりますね…。」
 アンビッシュ王国顧問ノアベルト・モリスン――現国王アルフレッド王の幼少期からの忠臣であるとともに世界有数のカンド魔法の博士でもある。彼の教えを経てカンドマスターになった者も少なくない。性格は謹厳実直で公正無私の人であり、先の件では、いち早くルード城へ駆け付けた英雄の1人だ。そんな彼が、高慢で私利私欲に走り、身を滅ぼした妖術使いの像とどうしても重ならず、ブリットは頭を傾げた。
「いや、私も、若い時分にアルフ王から聞いた事があるだけで詳しくは知らないのだ。デュルゼル、お前はオルテガ殿と懇意なのだろう?何か聞いた事はないか?」
 大魔導師オルテガが公の場で活躍していたのは950年代半ばから960年代初めまでであり、現在40代のルドルフ王がまだ王子であった頃だ。賢者の都オルドスの建国者を知らぬ訳ではなかったが、ほとんど記憶にない。その点デュルゼルは心の師と仰ぐ程に彼を知っている。しかし――。
「いえ、私も何も…。」
「そうか…。いや、話が逸れてしまったな。すまない。」
ルドルフの言葉を最後にゲッペウスの名が3人の口から出ることはなかった。しかし、3人は伝説の魔術士と、30年振りに魔女の海から帰還したと言う同じ名前を持つ女の存在を単なる偶然とは思えなかった。

 「――陛下のご様子だが…」
謁見を終え、帰路に着こうとしたデュルゼルは、見送りに来たブリットに声を掛けた。
「本日はお顔色が幾分かよろしかったようにお見受けしたが…実際どうなのだ?」
「は…。ここ数日、食欲も少しずつではございますが、戻られ、夜もよくお休みになられているご様子です。また昨日は、執務の合間、お庭のお散歩もなさいました。もうお察しと存じますが、陛下の変化は、あの女と話しをされてからです。」
シャルロッテ・ゲッペウスの事をブリットは警戒しているようだ。
「陛下は彼女と何を話された?」
ブリットはその質問を待っていたとばかりに語り始めた。

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序章・第1章をまとめて読む→
#1 春告の求道者 序章〜第1章_ver.女性主人公 | 春告の求道者_ver.女性主人公 - アメンボ - pixiv