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序章③_ver.男性主人公

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第3節

 「宮廷剣士デュルゼル様ですね?」
振り返ると紺色のローブを身に纏った男が立っていた。格好からして魔法の使い手だろう。少し癖のあるダークブラウンの髪を後ろで結んだ、琥珀色の目をした整った顔立ちの優男だった。
「こちらにおられると、国王陛下より伺いましてね。…お会い出来て良かった。」
男は琥珀色の目を細め、童話に出てくる狡賢い猫のように笑った。
「おい、誰だよ、あんた!」
稽古を付けていたローディが早速男に噛みついた。
 その日は朝から激しい雷雨に見舞われており、デュルゼルは稽古を休ませようと思ったが、天気は午前中の悪天候の埋め合わせでもするかのように昼過ぎから徐々に太陽を覗かせた。春の天候は不安定だが、折角なのでいつもの場所で、普段通りの稽古を行う事にした。いつもの場所――ゲルドの丘の近くで。何度目かの討ち合いで男は突如現れた。ローディはおろかデュルゼルさえも、声を掛けられるまで男の気配に気付かなかった。
 「ああ、これは大変失礼致しました。」
男はそう言ったが、その声音からは全く誠意が感じられなかった。
「私は、ローベルト・ゲッペウス。そしてこちらが…」
ローベルトと名乗った男は、おもむろに身体を横にずらした。驚いたことに、現れたのは男1人ではなかった。男の後ろにさらにもう2人佇んでいたのだ。
 1人は、薄紅色の腰まで届く長い髪を後ろで縛り上げ、ゆったりとした白い神官風のローブを纏い、柔和な笑みを浮かべた美女で、ローベルトとは反対に人に親しみを感じさせた。
 もう1人は緑色の髪を肩まで伸ばした12、3歳の少女で、やはり神官風の白いローブを纏っていたが、その上に濃橙色のベストを羽織り、鮮やかな赤い布を帯代わりに腰に巻いていた。少女は緊張しているのか少し強張った表情をしている。少しゲルドに雰囲気が似ている…と、デュルゼルは思った。
「――オルドスが神官ウーナ様と、ご息女のレオンティーナ様です。」
ローベルトが紹介すると、母娘はデュルゼル達に向かって会釈をした。
「あんた達、オルドスの神官なのか?」
オルドスと聞いて、ローディの声がやや柔らかくなった。
「ええ、こちらのお2人はね。私は…一時的にお世話係として雇われた一介の魔術士です。…ところで貴方は?」
一瞬、ローベルトがローディの顔を見て驚きの表情を浮かべたのをデュルゼルは見逃さなかった。しかし、ローディは気付かなかったようで、
「俺はローディ――剣士デュルゼルの弟子だ!」
と3人に名乗り上げた。
「ほぉ…、デュルゼル様は弟子をお取りにならないと伺っておりましたが…。貴方は剣士として素晴らしい素質をお持ちなのでしょうな!」
にこにこと取り繕うローベルトの態度に気を溜めつつも、
「――して、ご婦人方はこの老ぼれに何のご用かな?」
と、デュルゼルは親子に尋ねた。ローベルトはデュルゼルに視線を戻す。彼は口元に笑みを浮かべていたが、その目は冷ややかで、デュルゼルを値踏みしているようだった。
「白き魔女について知りたいのです。――そして、」
男の口元から笑みが消えた。皮肉な事に、笑みを消した方が、男は真面目で優しそうな人物に見えた。
「墓があれば…花を手向けたいと――彼女が。」
ローベルトはレオンティーナと言う少女の肩にそっと手を置き、自分の前に立たせた。
レオンティーナは、その薄水色の瞳でデュルゼルを少し見据えた後、ペコリと彼に頭を下げた。
「――案内しよう。」デュルゼルは低く呟くように言った。

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#1 春告の求道者 序章〜第1章_ver.男性主人公 | 春告の求道者_ver.男性主人公 - アメンボ - pixiv