アメンボの倉庫

!ご注意!オリ主の登場する二次創作の小説等を置いています。

序章④_ver.男性主人公

 デュルゼルとローディは3人をゲルドの墓に案内し、あの時あの2人に聞かせた白き魔女の物語を事件の真相や顛末等必要な補足を付け加え語った。3人は黙って聞いており、ローディもその傍らで腕を組み、耳を傾けていた。デュルゼルと白き魔女の関係はある程度あの2人から伝え聞いていたが、デュルゼル自身の口から直接話を聞くのは初めてだった。
 デュルゼルの話を聞き終えると、神官親子は彼に礼を言い、供花を探しに森へ入って行った。
 墓の前にはデュルゼルとローディ、そしてローベルトだけが残された。しばらく沈黙が続き、ローディが気まずさを覚え始めた頃、口を開いたのはローベルトだった。 
「“女神”ですか…。」
ゲルドの墓に刻まれた文字を掌でなぞりながら男は呟いた。
「生憎、俺は詩人ではない。それ以上の言葉が思い浮かばなかった。」
「いえいえ――。デュルゼル様の誠実なお人柄が感じられる良い墓標と存じます。」
そう言うローベルトはずっと墓の方を向いており、デュルゼルとローディの方を見ない。
「あんたなら何て刻むんだ?」ローディが尋ねた。
「……。私は墓を建てるどころか土にすら埋めませんよ。…魔獣に遺体の処理を任せるだけです。」
 森の梢が風に揺れた。葉が擦れ、枝が軋む音が頭上から聞こえる。デュルゼルは男の言葉に一呼吸置くと口を開いた。
「…俺と話がしたかったのだろう。そうでなければ、わざわざ結界を張り、周りの安全を確保してまで護衛対象と離れるような真似はしない筈だ。」
「ほぉ…、結界に気付いていらっしゃいましたか。流石デュルゼル様。」わざとらしい、おどけた口調で男は言った。
「結界だけではない。お前の敵意にも気付いているぞ。」
 デュルゼルの言葉にローベルトは立ち上がり、振り返る。紺色のローブが翻った。彼は相変わらず静かな嘲笑を浮かべていた。
「…ゲルドを守れなかった俺が憎いか?」
デュルゼルは低い声で男に尋ねた。
「いいえ。私はむしろ貴方に、同情の念を禁じ得ません。」
男は飄々と答えた。続けて、
 「貴方は私から敵意を感じるとおっしゃるが、私が怒りを覚え、敵意を向けるとしたら、あの娘です。墓まで建ててくれた友に対し、この仕打ちとは…。」男は大袈裟に溜息を吐きながら言った。
 「私はあの娘が苦手でした。私は、あの娘と出会う前に既に私にとってのいけ好かない人間と言う者を熟知し対処法も心得ているつもりでしたが、――あの娘はそれ以上の逸材でした。
 皆で問題に当たる際、既に自分の中で答えが導き出せているにも拘らず、それを誰にも打ち明けず、人を試すような真似をする――人が悪戦苦闘しながら答えを探すその様を、高い所から見下ろしほくそ笑んでいるのです。それを知った時、どれ程相手の自尊心を傷付けるか、理解出来ない類いの人間――。彼等は微笑み、温かい眼差しで仲間の成長を見守っているつもりでしょうが、実際は違う。彼等にとって仲間は対等ではない。自分が今浮かべてる表情が、実験用の動物を見る眼差し――絶対的優位、あるいは唯一の人間が下位の生物に向ける嘲笑だと言う事に気付いていないのでしょうね。」
「…随分と、卑屈な見方だな。」
「そうですか?相手の本性に目を塞いでいるのは貴方では?
 貴方はあの娘を博愛と慈悲に溢れた女神のように仰いますが、あの娘の根底にあるのは母性ではなく父性です。言わば条件付きの愛情です。
 デュルゼル様。貴方とあの娘がその村で出会った時、その村の未来を予知した彼女の表情はどんなものでしたか?あるいは、彼女が貴方の意志を尊重した事は、本当にあったのでしょうか?

 彼女は、死の間際、自分の命を狙う王妃の従者と対峙した時、貴方の動きを封じる術を使いました。
 貴方の身を守る為――しかし、その理由は、貴方への友情からだけではなかった。
 未来が視えるあの娘は、来るべき、王妃との決戦の際、貴方が五体満足で挑めるように――かの巡礼者達の助けとなる、最良の駒として、貴方を取っておきたかった…そう考える事は出来ませんか?あの娘は、貴方方が思っているより、ずっと強かですよ?

 ……哀れなデュルゼル…。
 あの時、勝てずとも、守れずとも、果敢に襲撃者に挑み、腕の1本や2本失っていた方が、まだその苦しみは軽かっただろうに。
 託された希望を自ら手放してしまう程に、不要な罪の意識に囚われて――貴方は3年間幽閉生活を送られたそうだが、実際は20年もの歳月を心の牢獄で過ごされた。

 ゲルドはあの時、貴方の身を守る代わりに、貴方の精神を殺したのですよ。」
「お、おい!」
ローディが声を上げた。

 「お前、さっきから何なんだよ?白き魔女はその魂を犠牲にして世界を救ってくれたんだ!そんな言い方…」
ローディは今にもローベルトに掴みかかりそうだ。
「お前がゲルドとどのような関係だったかは知らないが、彼女を貶めるような発言は許さんぞ。」
デュルゼルも静かだが、怒気を含めた声で男に詰め寄る。
「おやおや…。…でははっきり申し…」
「――ゲッペウス。」
ローベルトがまだ何か言い掛けた時、凛とした女性の声が場を支配した。

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序章・第1章をまとめて読む→
#1 春告の求道者 序章〜第1章_ver.男性主人公 | 春告の求道者_ver.男性主人公 - アメンボ - pixiv